「どうしてこんなことをしなければいけないんでしょうか」、「外米はまるで害米扱いですね」。焼酎業界から嘆きの声が聞こえてくる。来年7月から産地情報の伝達が義務付けられる「米トレーサビリティ法」のことである。発端は例の事故米騒動。農水省のずさんな管理のもと、悪徳業者が厳禁されていたはずの事故米を加工業界にばら撒いてしまった一件である。何の落ち度もなかった酒類業界が大打撃を蒙ってしまった。政府は全面的に責任を認め、被害を受けたメーカーに補償を行った。二度とこのようなことをおこさない対策を講じるとばかり思っていたところ、今後とも事故米混入が起こりかねないことを想定し、責任を業界に押し付けようとするかのように、外国産か国産かの情報伝達を酒造メーカーに義務付けるというとんでもない方向に事態はすすんだ。
当初は、酒類は対象にならないとの見方が一般的だった。次いで米が「主たる原料」である清酒、米焼酎、泡盛が対象との見方に変わり、終いには芋焼酎や黒糖焼酎から事故米騒動が始まったことから米を使用する乙類焼酎全体が対象となったという場当たり的、感情的な経緯がある。
それにしてもなぜ「米」だけなのだろう。それも主食用とは競合しない米である。外国産表示が必要であればすべての原料に適用すべきと考えるのは当たり前である。米を原料とする飲料はビール、甲類焼酎、米酢など他にもある。なぜ、清酒、乙類焼酎、みりんだけなのだろう。この業界だけが問題をおこしそうだと考えているのだろうか。
何よりも気になるのは、外米を使用した酒が悪い印象を与えかねないことである。本格焼酎と外米は切っても切れない関係にあった。米麹がないと芋焼酎は造れない。米不足の沖縄や南九州では、麹造りに最適な水分を得るために硬いタイ米を好適米に変える二度蒸しという技法を編み出し、酒質を向上させてきた。今日の芋焼酎があるのは米が自由に手に入ればこそである。外米には感謝こそすれ、のけ者扱いは失礼というものである。外米の怒りを帯びた嘆きの声が聞こえてくる。
米の原産地ではなく、酒の品質で選ぶ愛飲者の姿勢に期待したい。 |