11月1日は焼酎の日。焼酎つくりに最適な爽やかな陽気で、サツマイモ収穫真っ盛りの季節である。焼酎蔵からは、今年はおいしい焼酎ができているよといわんばかりに嬉しそうに甘い香りの湯気が立ち昇っている。
この時期に開かれる新酒祭りはすっかり鹿児島の秋の風物詩になった。日照り続きで水不足の夏だったにも関わらず、今年のサツマイモはひときわ元気がいい。新酒祭りは、旱魃に強いサツマイモへの感謝祭でもある。
台風が来なかったことも今年の恵みのひとつである。サツマイモは台風に強いが、焼酎造りは台風に弱い。台風に停電はつきもの。停電になると居心地の悪くなった麹が暴れだして、時に火傷をしそうなくらいの高温になってしまう。酵母も熱に浮かれてフ〜ラフラ。
それだけに、台風の夜は一刻の猶予も許されない。杜氏は風が吹き始めると台風の準備確認に動き回り指示を出す。瞬間的な停電が出始めると、部下の蔵子を引き連れて工場内で待機する。噛んでみて麹の出来を確かめ、ここまできたら良かろうと、次の停電が来ないうちに麹を取り出す指示を出す。緊迫した中で、動じず、冷静に判断を下していく。それは幾度となく体験してきた自信に裏づけされている。そして、台風の過ぎた翌朝、何事もなかったかのように平然と、いつもどおり焼酎造りにいそしむ姿がまたカッコいい。
来ないに越したことはないが、台風が来ると、嵐の中でサツマイモを掘り出す農家の人たち、それに応えようと奮闘する造り手たちの姿が思い浮かび、焼酎造りに生涯をかける心意気が焼酎の味わいをいっそう深いものにしてくれているように思える。
どこか寂しげな秋にあって、暖かなお湯割りを求めて、新酒祭りの焼酎蔵へ集まってくる人たちの顔はみな秋の恵みの暖かさの中に酔っている。そこには台風の宿命と対峙し、伝統の味わいを守り続けてきた老練な味わいが加味されていることを知って欲しい。 |