人吉盆地の“隠し田”から生まれた球磨焼酎
麦焼酎の壱岐島と並んでWTOから原産地呼称の指定を受けたのが、熊本県の南東部人吉盆地の米焼酎、球磨焼酎である。この地域だけは細川藩ではなかったからか、同じ熊本県でも平野部とはかなり風習や酒の文化が異なる。
人吉盆地には現在でも大小合わせて29社の焼酎メーカーがあり、江戸時代から脈々と米焼酎を造っている。米を原料に使う贅沢な焼酎造りが生まれた背景には、この盆地には幕府に届け出ていない隠し田が多数あったからだと言われている。実際に平野部から球磨川の急流沿いに盆地へと上がっていくとき、まさかこの奥に肥沃な水田地帯が広がっているとは想像しにくい。江戸から遠く離れた辺境の地であったことをうまく利用していたのであろう。
球磨焼酎の飲み方はストレートやオンザロックが中心で、お湯割りが中心の他の地域とは際だった違いを見せる。これは鮎料理や猪肉など地域を支えてきた食文化との関係が強いと考えられる。
県外移出の代表銘柄と言えば、共同銘柄の「球磨焼酎」や最近は首都圏でもよくみかける「しろ」、熟成酒の「たる繊月」などが有名であり、低温発酵・減圧蒸留による吟醸酒のような香りを持つ焼酎など研究開発に熱心な蔵元の個性溢れる商品が揃っている。
酒文化研究所 狩野卓也(日刊ゲンダイ 10/23掲載)
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