|
|
豊穣の秋、芋焼酎の蔵は一年でもっとも忙しい時期を迎えます。大きな麻袋からゴロゴロところがり出すサツマイモの勢いのよいこと!…その新鮮な土の匂いを嗅ぐと、仕込み場の活気も最高潮に達するのです。
今回は“文献の昔”を飛び出して番外編、ある焼酎蔵の人々から聞いた昭和初期のこぼれ話を紹介致しましょう。商家や裕福な家ならともかく、農業や漁業を営む人々にとって、芋焼酎は毎日味わえるものでなかったそうです。
疲れきった体を引きずり、土間で足を洗ってさあゴクリ…水で割った芋焼酎を気つけのようにあおってそれでオシマイ。呑み助には何とも寂しいことでしょうが、それが当たり前でした。「お湯割りで“だれやめ”(一日の疲れをとる晩酌)されてたのではないですか?」と聞くと、苦笑されてしまいます。
「そんなに飲んどったらカカどん(女房、または母親)に叱られるぞ」。強い強い薩摩男児の意外に気弱な(?)一面、薩摩女の底力が垣間見えます。
薪で湯を沸かす時代にはお湯割りはちょっとした贅沢でした。寄り合いで「父さんたちを早く酔わせて帰そう」という賢妻の知恵がそこにはあったといいます。
つまり温かい芋焼酎の香気を鼻からも口からもいっぱいに吸い込むと、疲れた体に気持ちよく酔いが回り…あっという間に出来上がってしまうわけでした。
“慣れ親しんだ水割りではグイグイとキリがない”、薩摩のカカどんのお湯割り作戦、こんな楽しい話が文献に残っていないのが残念です。 |
|
|