これだけ寒いとお燗が恋しいですね。徳利を手にしたときの温かさ。猪口からゆっくりと口に含んだ時の柔らかさ。お燗ならではの優しい魅力です。ゆっくりくつろぐのにピッタリです。
昔からあったような印象のある燗酒ですが、実はそれほど古くからある飲み方ではありません。お酒を温める飲み方は、山上憶良の「貧窮問答歌」に出てくる粕湯酒など、万葉の時代から散見されます。粕湯酒は貧しい人が酒粕を湯でといたとされる酒で、かなりわびしいもの。温かかったではあろうけれど、今のお燗とはずいぶんと違います。
清酒を温めて猪口で飲むスタイルが広がったのは江戸期以降のこと。長いお酒の歴史から見るとわりと新しいと言えます。それまでは酒は平たい杯で飲まれることが多く、燗をつける道具も、燗酒を飲むに適した器も一般的ではありませんでした。酒そのものの、自分でつくる濁酒が主だったと言われています。祭りに合わせて酒を仕込み、酒がなくなったら祭りもおしまい。だから酒はゆっくり飲むものではなく、皆で大騒ぎして泥酔するためのものでした。今でも全国各地に祭りのために酒を仕込む神社がありますが、そこで飲まれる酒は濁酒で、飲み方はひやです。
ということは、燗酒は酒が商品として流通し、嗜好品としてわりと日常的に飲まれるようになってから広がったと見るのが妥当ということになります。燗酒はカジュアルなくつろぎの酒の象徴といったら大げさでしょうか。
燗酒にはお酒の日常化という新しい文化のなかから生まれたものなのです。