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球磨川の流れとゆるやかにしなる緑を心静かに眺めていてもお腹は減るものです。熊本料理のお店に飛び込みます。まずは、辛子蓮根(れんこん)。丸のままの蓮根に辛子味噌を詰め、そのまま衣をつけて揚げたものです。ツンとくる強烈な辛さに思わず鼻をつまみます。しかし蓮根の絶妙な歯ごたえとこの辛さ、癖になります。野菜たっぷりのだご汁(団子汁、すいとんの味噌汁のようなもの)も食べてホッとし、張り切って球磨焼酎の造り見学です。
蔵の中は上品な、ヨーグルトのような香りが微かに広がります。もろみタンクに近づくと、かなり大きい泡がタンクの口のギリギリまで泡立っています。同じ米原料である泡盛の静かに発酵する様子とはかなり違い、今まで見たもろみの原料の中では黒糖もろみの泡立ち方(シャボン玉のごとく)と似ています。その元気なもろみを味見させて頂きました。落ち着いた柑橘系の香りがし、自然な甘味を持つ中に少々の苦味も感じ、しっかりとした旨味があります。十分これだけで商品になりそうです。コップ一杯を飲み干してしまいました。
貯蔵庫にも案内して頂きました。暗い倉庫の中に整然と並べられた樽達が眠りについています。「20年くらい貯蔵している樽の中身は自然に蒸発してしまって半分くらいに減ってしまいます」と蔵元さん。濃い琥珀色の液体がコップに注がれます。上等なウイスキーのような甘い香り、華やかな芳醇さが口と鼻の中を駆け回ります。
「こちらは甕貯蔵庫です。40年物になります。甕は大正甕でもちろん手作り。ほら、口が歪んでいるでしょう。今はもう職人さんがいないため、手に入れることは出来ません」。確かに上から見る甕の口はまん丸ではなく、少し斜めにひし曲がっています。この手作りならではの甕は40年の歳月にどのような影響を与えてきたのでしょうか。香りは決して強くなく、クセも特には感じません。樽20年貯蔵のような華やかさはありませんが、まろやかで重厚。地味だけど口に広がる確かな存在感を感じます。「手の行き届いた、良い品質の製品を作り続ければ良いのです。あまりにもかたくな過ぎるのも良くはありませんが、こだわりを持ち続けてゆきたい」と力強く語る蔵元さん。その情熱と歴史を一口で感じました。
壱岐・琉球と供に産地指定を受けた球磨焼酎。人吉・球磨地方で産する米焼酎にのみ呼称が許されています。風土、歴史、蔵元さんの情熱、地元の人々の愛情。全てがそろい「球磨焼酎」が誕生、育まれてきたのです。 |
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