再び珍重されはじめた香り高く個性的な焼酎
本格焼酎好きでも粕取り焼酎を飲んだことがある人は、私の回りにもほとんどいません。戦後の混乱期に、粗悪な模造品や密造品が出回ったことも、印象を落としているのかもしれませんが、本来は香り高く個性的な焼酎です。
清酒を搾った後の酒粕には、まだアルコール分が10%弱残っています。伝統的な粕取り焼酎の造り方は、この酒粕を水に暫く浸して発酵させた後に、蒸気が通りやすいように籾殻を加えてよくまぜて、蒸籠に入れて熱します。蒸籠の一番上には冷たい水の入った円錐形の釜(カブトに似ているので別名カブト釜)を載せ、蒸気を冷やして焼酎を取り出します。このように固体を元にした蒸留方法は日本では他に類を見ませんが、中国や東南アジアには広く分布するもので、泡盛と並んで長い歴史のある焼酎です。最も盛んなのは、福岡県など北部九州ですが、現在では全国の清酒藏でも少量ながら造っているところがあります。
別名早苗饗焼酎(さなぶり)とも呼ばれ、北部九州の農村では田植え後にこの焼酎を飲むことも大きな楽しみのひとつだったようです。粕取り焼酎はグラッパのようなもので、クセが強すぎて嫌われていた時代もありましたが、最近ではグラッパ同様に、その個性を楽しみたいという人も増え、珍重されはじめています。
酒文化研究所 狩野卓也(日刊ゲンダイ 9/5掲載)
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